昔むかし、20年ほど前、アイドルに片思いをしている女子高生がいました。
彼女はテレビで見かけた男性アイドルにひとめ惚れし、コンビニなどでせっせとアルバイトするようになりました。もらったお給料は、東京までの交通費やコンサートチケット代に消えていきました。ラジオ局やテレビ局の前で随分長い時間、出てくる彼を待ちました。それはとても疲れることでしたが、でも、彼にたった一目会えるだけでも、女の子は幸せでした。
その女の子が一番悲しかったのは、彼が自分の存在を知らないことでした。彼女は彼のことをよく知っているのに、彼は彼女のことを何ひとつ知らないのです。せめて顔だけでも覚えてもらいたい。そう思って、いつも似たような色の服を着て、同じ髪型で出かけました。ファンレターもせっせと書きました。けれども、一度も返事は来ませんでした。それでも女の子は、彼のことが大好きでした。
いつか彼と直接話をしてみたい。
そしてできることなら、彼と恋をしたい。
友達には笑われたけれど、女の子は本気でそれを夢見ていたのです。
高校を卒業する時、女の子は迷わず上京することにしました。彼女の夢は、モノカキになることでした。いつか彼にインタビューをし、取材がきっかけでとても親しくなりたい、と夢見ていました。
女の子は少しずつ原稿がお金になるようになっていきました。芸能人のインタビューも何本かこなし、時には編集者にほめられるようにもなりました。
そしてある日、チャンスが訪れました。
アイドル雑誌で仕事をしてみないか、という話が来たのです。その雑誌で仕事をする、ということはつまり、アイドルにインタビューをする、ということになります。
ここで「やります!」と言えば、いつかは憧れの彼にインタビューができるかもしれません。彼とお話してみたい、という女の子の何年かごしの夢が叶うのです。
それなのにその女の子は、依頼を丁重にお断りしてしまいました。
「今インタビューに行っても、しかたがない」
そう気づいたからです。
売れっ子の彼にとって、インタビューはきっと一日に何回もあることでしょう。そして、ファンの顔をいちいち覚えていられないのと同じように、インタビュアーの顔を全員覚えてなどいられないことでしょう。
結局“その他大勢”から抜け出せそうにないことに気づいて、
「今はまだ、早い」
と、女の子はチャンスを見送ったのです。
普通のインタビュー記事は書けても、彼の魅力を最大限に引き出すほどの最高の文章はまだ書けない。どうせ彼の記事を書かせてもらえるのなら、大好きな彼に喜んでもらえるような文章でないと、申し訳ない。
その日から、さらに女の子は仕事をしました。いろいろな人と会って話して、記事を書いて、文章力を磨いていったのです。そのうちに大好きな彼は結婚してしまい、女の子も彼とは違う人と結婚しました。それでも、いつか彼に会って、彼のことを文字にするんだという気持ちは、女の子から消えませんでした。
さらに長い年月がたち、女の子は作家になり、何冊も本を出版できるようになりました。アイドルだった男性も素敵な俳優さんになりました。
ある日、女の子は仕事の依頼メールを見て、目を疑いました。その人の出演映画のDVDが今度出るので、推薦文を書いてほしい。そう書かれていたからです。
やっと彼の役に立てる。
喜んでお受けして、心をこめた言葉を彼に贈りました。
女の子の片思いは恋愛としては実りませんでしたが、彼を目指して毎日頑張ったので、ただの高校生だった女の子は、作家になり、自分なりのやりかたで、彼のサポートをすることができたのです。
大人になった女の子の手元に残った、彼と自分の名前がプリントされたDVDチラシ。
それは、その女の子なりの恋の成就でした。
……このお話は、もちろん、私のことです。
アイドルさんが誰かはここではあえて書きません。彼は、私の青春の象徴でした。太陽のようにキラキラした眩(まぶ)しい笑顔が大好きで、ただそれだけ見つめていられれば幸せだったのです。
本気で好きだったので、なんとかして近づく方法を探っていました。なんとかして、彼に釣り合う自分になりたいと努力していました。自分の取り柄は文章しかなかったので、彼に近づきたかったからこそ、原稿書きを頑張れたのです。
最前列にいても、舞台の上の彼との間に感じていた大きな隔たり。それを越えることができたこと、そしてここまで私を成長させてくれた片思いのパワーに、今でも感謝しているのです。
内藤みか


先生っ!今回のお話は、こ、言葉がでませんっ(◎_◎;)
どうして知ってるのっ?って思っちゃいました(汗)
内藤先生の文章が、多くの女性の心に響くのは・・・
やはり先生が
その時その時を等身大で生きてこられたからなんだな~
と今回再認識させていただきました。
ありがとうございます。
投稿: のり~ん | 2006.12.12
みか先生。
先生は本当に素晴らしいです。
文章が血や骨から立ち上がっているのがよくわかります。
私は役者のクセに、本を読むのが嫌だったりする人間ですが、みか先生の小説に出会って、
『活字の並べ方がうまいんじゃない!!
文章の奥には人間味あふれる魂を感じられる本だ!!』
と感動しています。
またまた「ガンバロウ☆☆」と思えた今回のコラムでした。
投稿: 星野 麻耶 | 2006.12.13
先生、素敵過ぎます!
自分の出来る最良のことを磨いて
想いを成就させる・・・
私も勇気付けられました☆
投稿: 水延yuriko | 2006.12.14
水延さま>
ありがとうございます(≧∇≦)/
ベストを尽くして悔いなしです(笑)
星野さま>
私は舞台に立って演技するのは恥ずかしいし度胸もないしできないです(≧∇≦;
だから星野さまもスゴイですよ♪
のり〜んさま>
おおッ(≧∇≦)?
同じようなご経験を・・・!?
投稿: みか | 2007.01.16